読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

だるろぐ

とてもだるだるした日記です http://about.daruyanagi.jp/

お知らせ

『中国の神獣・悪鬼たち―山海経の世界』

山海経 読書

中国の神獣・悪鬼たち―山海経の世界 (東方選書)

中国の神獣・悪鬼たち―山海経の世界 (東方選書)

かつて『山海経』を読んだのだけど(そのころのブログ記事はもうないみたいなので、少なくとも4年前か。『漢字源』 - だるろぐ にわずかに残滓が残る)、あれは

山川に棲むもろもろの妖怪・鬼神たちの名称を記録し、それにそれぞれの属性を付記した戸籍

であり、

中国各地の山林川沢に棲む怪力乱神ならびに野生の猛禽獣や蝮蛇類の博物誌

であり、

人々がもっとも恐れ嫌っていた山川の札付き悪党どものリスト、いわば山川の『悪紳士録』

に過ぎなかった。記述は簡潔だが、具体的内容に欠け、想像の翼を広げるには魅力的だが、古代中国人がどんな世界観をもっていたのかを知るには不十分だった。というわけで、本書を購入。

日本では古来から「地震雷火事親父」を恐れてきたというけれど、同様のモノを中国では「水旱蝗兵」と言ったらしい。要するに、水害・旱魃・イナゴの害・戦乱だ。なので、これらを物象化した悪鬼というのがいる。「外に出るとこんな災厄があるよ、内にいなよ」「近くにこいつらがでると災害の予兆だよ」というわけだ。

その一方で、外の世界には内の世界では得られない、貴重な資源もある。『山海経』でも「これはなになにの病に効く」だの「なになにのお守りに使える」という記述が少なからずある。ちょっと面白いのが、薬はほんとうに“服”用したらしいということ。口から飲むのではなく、カラダに巻き付けるんだそうだ。現代人はヒエピタとシップぐらいしか“服”用しなくなったけれど、かつては病気が悪鬼の仕業だと考えられていたから、悪鬼の苦手とするものを装備して撃退するという発想はきっと自然なものだったに違いない。

で、なんでわざわざそういうのをまとめた本を作ったのかというと、どうやら当時の中国人には「あらかじめ名前を知ることで、その災いから逃れることができる」という考えがあったかららしい。

八年,伐陸渾戎,遂至洛,觀兵於周郊。周定王使王孫滿勞楚王。楚王問鼎小大輕重,對曰:「在德不在鼎。」莊王曰:「子無阻九鼎!楚國折鉤之喙,足以為九鼎。」王孫滿曰:「嗚呼!君王其忘之乎?昔虞夏之盛,遠方皆至,貢金九牧,鑄鼎象物,百物而為之備,使民知神姦。桀有亂德,鼎遷於殷,載祀六百。殷紂暴虐,鼎遷於周。德之休明,雖小必重;其姦回昏亂,雖大必輕。昔成王定鼎于郟鄏,卜世三十,卜年七百,天所命也。周德雖衰,天命未改。鼎之輕重,未可問也。」楚王乃歸。

「史記」楚世家より、楚に使いしてきた周の王孫満に、荘王が“鼎の軽重を問う”場面。九鼎に描かれた“象物”は、民に“神姦”を知らしめ、さまざまな害獣・災厄から身を守るのに役に立つのだという。まぁ、「山海経」にも名前を呼ぶだけで逃げる悪鬼が少なからず記されているしね、名前知っとくのは大事だよね。

――それはそれとして。

『山海経』の内容というのは、現代の視点からみるとまったくの荒唐無稽だが、神話を知るというのは民族のルーツを探ったり、文献としては残っていない古い歴史を知るための手掛かりにもなる。また、こうした知識は『論語』をはじめとする中国古典の下敷きにもなっている。この詩はなにをうたっているのか? なぜ唐突に奇獣を得たことが歴史書の片隅に書かれているのか? こういうことはその背後にある知識にも通じていないと理解できないんだよね。

あと、それとは別に、中華ファンタジーの元ネタとしても楽しめる。まぁ、かならずしも元ネタが「山海経」からであるとは限らないのだけど……。

f:id:daruyanagi:20150222062700j:plain

たとえば、『もののけ姫』にでてくる「猩々」。「山海経」には、

有窫窳,龍首,是食人。有青獸,人面,名曰猩猩

とある。日本に伝わってきた猩々と、中国の元々の猩々って、割とイメージ違うのね。人面なのはともかく、“青獣”なんだそうだ。これだけだとあんまりイメージが付きにくいが、礼記には「鸚鵡能言,不離飛鳥;猩猩能言,不離禽獸(オウムはしゃべれるけど所詮鳥、猩々もしゃべれるけど所詮禽獣)」とある。あと、お酒が好きらしい。

また、『十二国記』に登場する獣の多くも「山海経」に記されている。たとえば、騎獣の「騶虞」は「騶吾」のことと思われるが、

林氏國有珍獸,大若虎,五彩畢具,尾長於身,名曰騶吾,乘之日行千里

とある。作中のイメージにも近い。ちなみに、珠晶が乗っていた「孟極」はこんな感じ。

又北二百八十里,曰石者之山,其上無草木,多瑤碧。泚水出焉,而西流注于河,有獸焉,其狀如豹,而文題白身,名曰孟極,是善伏,其鳴自呼。

ついでに行空師の騎獣に使われていた「鹿蜀」。

又東三百七十里,曰杻陽之山,其陽多赤金,其陰多白金。有獸焉,其狀如馬而白首,其文如虎而赤尾,其音如謠,其名曰鹿蜀,佩之宜子孫。怪水出焉,而東流注于憲翼之水。其中多玄龜,其狀如龜而鳥首虺尾,其名曰旋龜,其音如判木,佩之不聾,可以為底

中華ファンタジーで見つけた妖獣を「山海経」で探すの、割と楽しいですよ。

山海経―中国古代の神話世界 (平凡社ライブラリー)

山海経―中国古代の神話世界 (平凡社ライブラリー)

月の影 影の海〈上〉―十二国記 (新潮文庫)

月の影 影の海〈上〉―十二国記 (新潮文庫)